「ジブンら、何言ってんの?本題は、この春の、残りの募集期の戦い方に決まってるやん。」
「そ、そりゃあ、そうですよね。」
「でな、はっきり言って、流石のわしでも、打つ手は思い浮かばんわ。」
「ええー!!こんなけもったいぶっておきながら、分からないですって!!」
またまた全社員がズッコケた。
「ジブンら、吉本新喜劇やないんやから、いちいち転ばんでええから。」
「あっ、はい、すみません…。」
「実際問題、即効性のある手があるわけやない。何ができるんかは、今から皆で考えるんや。どんなことでもええ。それぞれがやれることを考えて、動いていくことや。ほんで、そのためのヒントを与えとく。」
「はい。」
「生徒数を伸ばすためには、教室の空気が一番重要なんは分かってるわな。空気の悪い教室には人は集まらんし、空気の良い教室には人が集まる。これは塾だけやのうて、全ての業界においての共通項や。」
「はい。」
「ただな、これ、皆よく勘違いするわけや。空気って、魔法のように一瞬で変えれるもんやと思ってるわけやな。でも、そんな簡単なもんやない。教室の空気ちゅうのは、そこにいる人の気持ちの塊や。つまり、一人ひとりの気持ちが変わって、それが過半数を超えた時、初めて教室の空気は変わるんや。」
「なるほど。」
「だから、教室の空気を変えようと思ったら、地道に一人ひとりを大切にせなあかんわけやな。一人ひとりとの約束をしっかり守らなあかんし、一人ひとりに気を配り、喜ばしたらなあかん。それしか教室の空気は変えられへんのや。」
「確かに、そうですよね。」
「それから、もう一つ覚えておいてほしいことがある。」
「はい。何でしょう?」
「人間は“感情”で動くということや。」
「感情ですか?」
「そうや。塾なんやから、成績を上げることは、もちろん重要なんやけど、それ以上に人からの信頼を勝ち取ることの方が大切なんや。幸い、人間という下等動物には“感情”というもんがある。“自分のために”、“我が子のために”一生懸命やってくれていると感じたら、有り難い気持ちになる。そして、その人に対して、その塾に対して、“良い感情”が湧いてくるわけや。そうなると、ガキんちょ達は塾にやって来るのが楽しくなるし、保護者どもは塾から連絡が来ることで安心する。そういう状態が過半数を占めた時、その教室の生徒数は増えるようになるんや。」
「はい。」
「だからな、もう一度、言うけど、一日一日、一人ひとりに声をかけたり、話を聞いてやったり、授業の状態をチェックしてアドバイスしてやったり、そういう地道な作業が重要なんや。わしは、よく、“愚直にすること”が大事っていう話をするんやけど、一過性やなくて、毎日毎日、当たり前のことをできるだけ高いレベルでやっていくことが本当に大事なんや。」
「なるほど。」
「そして、そのためには自分の心を常に落ち着いた状態に持って行っとかなあかん。それやのに、さっきみたいに、人間はすぐカリカリするわけや。だいたい、弱っちい人間はすぐに吠えよる。ええか、イライラしたら考えてみ。自分は完璧なんか?って。1%の非もないんか?って。もし、そうやないんやったら、相手がどうのこうの言う前に、自分の至らなさに目を向けろちゅう話やな。謙虚、謙虚、謙虚…念仏のように唱えてたら、人にも優しくなれるし、何よりも自分の心が落ち着くはずや。とにかく、部下に対してでも生徒に対してでも、心を穏やかにしとかんかったら、上手くいかへん。」
「はい。」
「それから、最後に一つだけ。人からの意見に素直に耳を傾けることや。とくに神様であるわしの意見にちゃんと耳を傾けることやな。アハハハ。そして、良いと思ったことはすぐに行動することや。それこそ、愚直にや。すぐにやる人間とそうじゃない人間は、長い目で見た時、雲泥の差が生まれる。それを肝に銘じとき!」
「はい!分かりました!」
「まあ、これくらいかな。」
「タヌーキさん、有り難うございました!」
「おお。じゃあ、わし、そろそろ神の国に帰ることにするわ。」
「えっ?まだ春の募集期は終わってませんけど。」
「もうええやろ。わしが我利ちゃんに教えることはもうないわ。それに…。」
「それに?」
「我利ちゃんには頼りになる素晴らしい社員達がいる。いつ潰れるか分からん無名の個人塾を一緒に創って来てくれた武太ちゃんがいるやろ。ピンチの時に救ってくれた下村ちゃんもいるやろ。そして、ジブンらを信じて、今も頑張ってくれている多くの社員達がいるやろ。あいつらを信用して、頑張ればいいんや。」
「確かにそうですね。」
「我利ちゃん、ええか、ここからが本当の勝負やからな。さっきも言ったように、時代は変わった。だから、やり方を変えなければ未来はないわけや。そして、今までの成功体験を手放さなければ、新しいものは手に入らない。」
「はい。」
「そして、その改革は会社が傾いてからじゃ遅い。だからこそ、今なんや。ここが、新しい“個勉塾”を創るスタートラインや。元気に頑張るんやで。」
「はい、タヌーキさん、本当に本当に有り難うございました。タヌーキさんの期待に応えられるよう、頑張っていきます!」
「おお、頼むな。」
「はい!」
「ほんなら、神の国から、残りの春の募集期の成功を祈ってるわ!バイなら!」
タヌーキはそう言うと、入って来た窓から飛び出して、姿が見えなくなった。
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ここで、この物語は終わりです。
春の募集期の途中で終わってしまいましたが、結果はどうだったのでしょうか?
それは、現時点では分かりません。
毎年、私達がやっている地域に、新しい塾ができます。
この春も、“天下一個別”のような大手学習塾が三つできました。
はっきり言って、迷惑です(笑)。
そして、少なからず影響があります。
そんな中、今、教室では、毎日毎日、社員達が必死に頑張ってくれています。
本当に感謝の気持ちしかありません。
だからこそ、そんな彼ら彼女達がもっと誇りややりがいを持って働ける会社、子ども達や保護者達から信頼してもらえる塾、そんな会社(塾)にするために、今までの成功体験に捉われるのではなく、新しいことにチャレンジしながら、この愛すべき“個勉塾”を創り変えようと思っています。
だから、我利勉とタヌーキの物語は、今回で終わりです。
これからは、社員一人ひとりが主役の物語の始まりです。
では、最後に一言。
勝てる戦略とは…
時代の変化や状況の変化に合わせて、塾も自分も変わること。
おわり
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。