■場面は、“個勉塾”の全体会議。
会議は、終始重苦しい雰囲気に包まれていた。
特に、我利勉はキーツネの最後の言葉が気になって、会議に集中できていなかった。
「我利先生、どうかしたんですか?何だか暗い顔をしていますけど…。」
横に座っている武太陽子が声をかけてきた。
「いや、何でもない。ごめん、ごめん。」
その時、営業本部長の下村が絞り出すように言葉を発した。
「このままではヤバい…。」
その言葉を皮切りに、次々と教室長達が自分たちの教室の苦しい状況の話をし出した。
一通り、教室長達の発言が終わり、我利は下村から発言を求められた。
「まあ、皆、頑張っているんだから、仕方がない。とにかく、ここは諦めずに、頑張るしかないな。」
我利はそう言うしかなかった。
その時、一人の教室長が立ち上がった。
「我利先生!いや、我利社長!」
「ん?中居先生、どうしたの?」
「いえ、やっぱりいいです。何でもないです。」
「いいから、いいから、遠慮せずに言ってみて。」
「あっ、はい。えっと…言いにくいんですが…先ほど、我利先生は“皆、頑張っているんだから”と仰ってましたけど、そんなことないと思うんです。」
「えっ?どういうこと?」
「本当に頑張っていたら、こんな数字になっていないはずです!」
「まあそうかもしれないけど、実際、サボっている人はいないわけなんだし…。」
「そうですかね?木村先生の教室は退塾者を出し過ぎだと思うんです。いい加減な対応をしているんじゃないですか!」
「えっ?ちょっと待ってよ。私の教室が足を引っ張ってると言いたいわけ?」
「そんなことは言ってませんけど、明らかにおかしいかと…。」
「何がおかしいんだよ。」
「だって、クレームまがいの不満退塾ばっかりじゃないですか!」
「意味が分からない。こっちはこっちで必死にやってるんだよ。自分の教室の不甲斐なさを棚に上げて、中居先生は何を言ってるんだ!それに、私の教室よりも酷い教室があるじゃないか!」
「どこですか?」
「稲垣先生の教室。」
「はあ?私の教室ですか?」
「そう。だって、目標も達成していないのに、結構早く帰っているじゃないか。」
「結構早くって、終電があるんだから、仕方がないでしょ!」
「そんなの知らないよ。朝まで仕事をするくらいの努力が必要じゃないのかよ。今、終電だとかそんなことを言っている状況じゃないだろ!」
「それはそうかもしれませんけど…。」
「だいたい稲垣先生には必死さが足りないんだよ!もっと働けよ!」
「働いてますよ!!!私は、仕事はきっちりしているつもりです。退塾者の多い木村先生にとやかく言われたくないですよ!」
「何だって!」
「まあまあ、皆、喧嘩はやめようよ。」
「草彅先生、何を良い子ぶってるんですか?」
「えっ?良い子ぶってる?」
「そうですよ。草彅先生はいつも会社の悪口ばっかり言ってるじゃないですか!チラシが悪いだの、チラシの量が少ないだの、この会社には戦略がないだの、社長の我利先生が頼りないだの、そんなことばっかり言ってるじゃないですか!」
「そ、そ、それは…。」
「だいたい、草彅先生の教室の問合せがないのは、教室状況が悪いからでしょ!会社やチラシのせいにしないでくださいよ!」
「教室状況が悪いだって?何を根拠にそんなことを言ってるんだ!」
「草彅先生は自分の教室のことが分かってないんですか?部下の社員や講師達の愚痴ばっかり言っていて、教室の雰囲気が悪すぎるんですよ!」
「そんなことないって!」
「だったら、部下の社員に聞いてみたらいいじゃないですか?香取先生どう?」
「いや、まあ~。」
「香取先生、はっきり言えよ!」
「あっ、はい…。正直言って、雰囲気は良くないと思います…。」
「雰囲気が良くないだって?偉そうに…。」
「すみません!でも、私自身も草彅先生のことは尊敬できないです…。」
「はあ?ふざけるな!自分のできなさ具合を棚に上げて、私に文句を言う気かよ!」
「ほら、最悪じゃないですか!」
「ちょっと待てよ。香取先生の意見で最悪だなんて決めつけないでくれ!だいたい、業績的に言うと、中居先生の教室だって、全然ダメじゃないか!」
「えっ?私の教室ですか?」
「そうだ。最初、木村先生に偉そうに言ってたけど、目標達成していないじゃないか!偉そうに言うのなら、達成してからにしろよ!」
「いやいや、まだ春の募集期は終わっていませんから!」
「じゃあ、絶対に達成できると言えるのかよ!」
「それは…。」
「ほら見ろ!言えないじゃないか!」
「でも…達成に向けて頑張っているんで…。」
「頑張ってる?本当かよ!俺、知ってるからな。」
「何がですか?」
「皆、休み返上で頑張ろうって言ってるのに、黙って休みを取ってるだろ!」
「えっ!」
「分かってるんだからな。この状況でよく休めるよな。」
「確かに一日休んでしまいました…。娘の保育園で発表会があったから、どうしても行ってやりたくて…。」
「何を甘いこと言ってるんだよ!会社がこんなピンチな時に、娘の発表会だって、ふざけるなよ!」
「皆、もういい加減やめてよ!!!」
取締役でもある武太陽子が叫んだ。
一瞬、場は静まり返った。
「こんなことしてたら、皆がバラバラになって、この会社は潰れてしまうよ!」
「武太先生、すみません。でも、今のこの状況にあるのは、武太先生や下村先生、そして社長である我利先生に、大きな責任があると思うんです。」
「責任?」
「そうですよ。上がだらしないから、今、こんな状況になってるんです。」
「う~ん…そうだよね…。」
「我利先生はさっきから黙ってますけど、どう思っているんですか!社長として責任を感じているんですか!」
「うん、申し訳ない。全て私の責任だ…。」
もうダメだ…。これがキーツネの言っていた内部崩壊か…。
※明日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。