二十.“天下一個別の”怒涛の反撃”により“個勉塾”に最大のピンチが訪れる!
■場面は再び、“天下一個別”の本社ビル内。
「キーツネさん、布石とか爆発とかって何のことですか?」
「ふふ。そのうち分かるはずさ。」
「いやいや、そんなこと言わないで、教えてくださいよ。気になって夜も眠れなくなりますから。」
「ん?キミはそんな繊細なタイプでもないだろう。」
「いえ、私、こう見えても結構ナイーブなもので…。」
「ふん、キミはナイーブの意味が分かっていないようだが、こうやって無駄な話のやり取りが続くのもまっぴらごめんだからな。まあ、教えてやろう。」
「はい、お願いします!」
「まず、何度もキミには話していることだが、前提の話をする。」
「はい。」
「これは春の募集期に限らずだが、生徒数を増やそうと思えば、入塾数を増やして、退塾数を減らすという、ごくごくシンプルな構造だ。」
「はい、それはその通りです。」
「ということは、その施策が必要なわけだ。」
「はい。」
「そこで、ミーはキミに内緒でその両方の施策を打つことにした。」
「えっ?私に内緒にですか?私がやってきたチラシや資料請求対応以外の施策をキーツネさん主導でやられたということですか?」
「そうだ。」
「何故、私に内緒にする必要があるんですか?私、信用されていないんでしょうか?」
「そうだ。」
「うっ…はっきり仰るわけですね…。」
「だって、そうだろう。今までキミに任せていて、この無様な結果になっているわけだからな。それに、“敵を欺くには、まずは味方から”という格言もあるだろう。アハハハ。」
「そうですか…。」
「それでだ、ミーがどんな仕掛けを打ったと思う?」
「う~ん…それは分かりません…。」
「だろうな。キミごときがミーの戦略を読めるわけないからな。」
「はい…。」
「この春の募集期、“個勉塾”は“天下一個別”がチラシを大量に打ってくると踏んで、その上をいくチラシを投下するだろう。」
「はい。」
「だから、その裏をかいて、この春はチラシ以外に、CMをバンバン流すことにした。しかも、今、旬のテレビタレントを起用して、かなり良い出来になった。そのCMが、明日から、お茶の間をジャックする!」
「ひゃー、明日からですか!」
「そうだ。そのCMを見た、あの変態タヌキとオーラの欠片もないポンコツ社長のビックリした顔を想像するだけで、今から笑いが止まらないな。アハハハハ。」
「だから、最初から、笑っておられたんですね。」
「まあな。」
「でも、CMって高くて、費用対効果としてはどうなんでしょう。」
「キミは分かってないな。今、CMはかなり安くなっていて、費用対効果としては悪くない。もちろん、弱小塾には手が出せない金額だろうが、大手塾にとっては、あれくらいの金額はたいしたことないんだ。それに、CMが評判になり、口コミが広がり、顧客の潜在意識の中に組み込まれるだけで、絶対に問合せは増える。まだまだメディアの力は大きい。」
「なるほど。思い切った戦略に出ましたね…。」
「ふん、別に思い切ったことでもない。当たり前の王者の戦略だ!」
「あっ、はい。」
「それから、退塾防止の仕掛けも打っておいた。」
「えっ?退塾防止もですか?」
「そうだ。」
「それは具体的にどんな戦略なのでしょうか?」
「これも、明日、各家庭に届くんだが、“顧客満足アンケート”を送っておいた。」
「へ?アンケートですか?それが、何故、退塾防止につながるんでしょうか?」
「キミは、やっぱり頭の悪い奴だな。この仕事のセンスがない。」
「はい、すみません…。」
「退塾というのは、塾に対して何らかの不満があるから、出るわけだろう?」
「はい、そうですね。」
「だったら、顧客がどんな不満を感じていて、どんな要望を持っているかを聞けばいいだけじゃないか。つまり、それらに対して、迅速に対応すれば退塾は出ないということだ。」
「でも、お言葉を返すようですが…アンケートがちゃんと提出されるかどうかが疑問でして…。」
「アハハハ、それもミーの想定内の話だ。実際、その対策も打っている。」
「えっ?その対策ですか?」
「そうだ。アンケートを提出してくれたら、二千円のプリペイドカードをプレゼントすることになっている。」
「ひゃー、二千円もですか!そりゃあ、アンケートの提出率は上がりますね!」
「そうだろ?」
「さすが、キーツネさん、ベリー、ベリー、クレバーです!」
「いちいち、耳障りな英語を使うな!」
「あっ、すみません…。ただ、そのようなプレゼントで釣っても、アンケートを出さない家庭もありますよね?その人達の対応はできないのでは?」
「ふふ。それは、それで、意味がある。」
「意味がある?」
「そうだ。アンケートを出してくれるところは、ある意味、まだ塾に期待してくれているわけで、出さないところが一番の退塾予備軍だということだ。それが明らかになりさえすれば、すぐにその家庭に連絡し、面談のアポイントを取ることができる。だから、これも退塾を未然に防げることにつながるわけだ。」
「なるほど!ほんと、さすがです!」
「まあ、顧客満足度アンケートというのは、メリットこそあれ、デメリットは殆どない。」
「確かにそうですね。これで、我々“天下一個別”の圧勝も間違いないですね!」
「いや、まだ足らない。」
「えっ?これだけやっても、まだ足らないんですか?」
「そうだ。“天下一個別”が生徒数を増やすだけでは、不十分だ。あの憎々しい“個勉塾”の生徒数を減らすことが必要なんだ!だから、ミーはそのための爆弾をしかけておいた!」
「ば、ば、爆弾ですって?!」
※来週月曜日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。