十九.第九ラウンドの終了
この前、一月に入ったばかりなのに、もう二月だ。
月日が経つのが本当に早く感じられる。
第九ラウンドでは、春の募集期の戦略として、“天下一個別”と“個勉塾”は、それぞれチラシの制作に工夫を凝らし、資料請求に対する問合せ対応についても力を注いでいった。
その結果、今回も軍配は“個勉塾”に上がった。
これは、“天下一個別”の戦略参謀であるキーツネ(自称・個別指導の神様)の性格を知り尽くし、その上をいく戦略を考えているタヌーキ(これまた自称・個別指導の神様)が“個勉塾”側についていることが大きいのは言うまでもない。
■場面は、“天下一個別”の本社ビル内。
会議室には、いつものように、参謀・キーツネと営業本部長の塩川がいたが、今回は何か様子が違う。
「アハハハ。今回も見事に“個勉塾”にやられたな、塩川君!」
「あっ、はい…。申し訳ございません。」
「本当に見事な負けっぷりだ!アハハハ。」
「キーツネさん、どうかされたんでしょうか?」
「ん?何がだ?」
「いや、あの、負けたのに笑っていらっしゃるというか、何だか機嫌もよろしいようで…。」
「そうか?別に機嫌がいいわけはないが、キミのダメさ加減を見ていると、もう笑うしかないだろう。アハハハ。」
「そうですか…。今回も私のせいだと…。」
「当たり前だろ。キミ以外の誰のせいだと言うんだ?」
「いえ、私の力不足が原因なのですが…、ただ、今回のチラシも、明らかに向こうはうちの上をいく出来栄えだったので…。」
「ん?つまり、あれか?キミはミーの戦略がタヌーキのそれに負けているとでも言いたいわけか?」
「いえ、そんなことは言っていないのですが…。」
「じゃあ、何が言いたいんだ?はっきり言ったらどうなんだ。」
「そ、それは…キーツネさんがどうのこうのではなく、とにかくあのタヌキの化け物はただものではないと思いまして。」
「ふふ、ただものではないか…。確かにそれはそうだ。あのタヌーキは、昔から変態だったから、あいつの考えることも行動することも誰にも分からなかった。」
「ふ~ん…そんなに変態だったんですね。」
「まあでも、所詮、変態は変態だ。ミーのようなエリートがその変態に負けるわけがない。」
「それはそうなんですが、現実的には、我々“天下一個別”が劣勢に立たされているのは間違いないわけで…。」
「アハハハハ。劣勢?」
「はい?私、何かおかしなことを言いました?」
「まあ、キミのレベルから見たら、劣勢に見えるんだろうな。アハハハ。」
「いやいや、キーツネさんも最初に“個勉塾にやられたな”と仰ったじゃないですか?」
「あくまでもキミがやられたわけで、ミーがやられたわけではない。」
「あっ、はい。」
「それに、実際、布石はちゃんと打ってある。それがもうすぐ爆発するはずだ。」
「えっ?布石?!爆発?!」
■場面は変わって、“からくり屋珈琲店”。
いつものように、タヌーキと我利勉の凸凹コンビがコーヒーを飲んでいた。
「我利ちゃん、今日はえらい“デキる男”みたいな雰囲気を醸し出してるやん。なんか良いことでもあったんか?」
「そうですかね。普通ですけど…。」
「いや、普通やない。ジブン、いつも辛気臭い顔してるくせに、今日は何かさっぱりした顔になってるわ。」
「ということは、男前になったってことですかね?」
「そんなわけあるかいな。ブサイクな奴は、どこまでいってもブサイクに決まってるがな。」
「そうですか…。」
「でも、何で今日はいつもと違うねん。」
「まあ、たぶん、“天下一個別”のチラシよりもうちのチラシの方が出来栄えも、反応もいいからじゃないですかね。」
「でも、春の募集期なんて、まだ始まったばっかりなんやから、そんな喜んでてもしゃーないやろ。最初だけ良くて、その後、どんどん悪くなってしまって、ぬか喜びでした!なんてことも世の中一杯あるからな。」
「まあ、大丈夫ですよ!最初はあの超大手の“天下一個別”にビビっていましたけど、実際たいしたことないというか、何たってうちには個別指導の神様のタヌーキ様がついてますからね。ねっ!タヌーキさん!」
「う~ん…。」
「えっ?どうしたんですか?」
「いや、わしのジブンに対する教育が間違ってた気がしてな。」
「どういうことですか?何も間違ってはいませんよ。実際こうやって、私はタヌーキさんのお陰ですくすくと社長として成長していますから。」
「そうかな…。」
「そうですって。」
「でも、ジブン、わしに頼りすぎちゅうか、わしに対しての依存心がどんどん高まってる気がしてな。」
「えっ?そんなことないですって!」
「まあ、それならええねんけど。」
「はい。」
「じゃあ、順風満帆な感じのスタートちゅうことみたいやから、これからまだまだ続く春の募集期頑張りや。」
「はい。…あっ、そうだ!」
「何や?」
「えっと…。(ちょっと気になることがあって、タヌーキさんに相談したかったけど、さっき依存心が高まってるって言われてしまったから、相談しにくいな…。)」
「どうしたんや?」
「いえ、何でもありません。春の募集期はこれからが本番ですから、頑張ります!」
「おお、“天下一個別”に反撃されんように、せいぜい頑張りや!」
「はい…。」
※明日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。