■場面は、タヌーキと我利サイド。
「…というのが、今までのうちのテスト対策なんですけど、今回は“関ヶ原のテスト対策の戦い”なんで、更にバージョンアップさせようと思っているんです。」
「おお、具体的には?」
「やはり、テスト前には演習量が必要だと思うので、二週間前からの自習にもっと呼ぶようにすることと、直前の土日はもっと多くの時間の演習授業を入れようと思っているんです。」
「つまり、時間を増やすということか?」
「はい。」
「それはあかん。」
「えっ?何故ですか?」
「あかんちゅうか、無理やろ。」
「だから、何故なんですか?」
「ジブンとこ、生徒数多いやん。これ以上、呼んでも席ないやろ?」
「あっ!確かに…。」
「もうええ加減、気づかなあかんで。生徒数が少ない時の発想で教室回してたら、えらいことになるで。」
「う~ん…。」
「生徒を一杯呼んで、一杯勉強させて、それは確かに成績を上げる上でも、口コミ創りにおいても、有効な戦略やけど、それはまだまだ生徒数が少ない時にやることや。まあ、つまりはチャレンジャーの戦略やな。」
「そうですけど、やはり、大手に勝つにはこういう足で稼ぐような戦略で対抗するしかないかと思うんですけど。」
「そんなことない。もっと頭を使わなあかん。」
「そうですか…。」
「我利ちゃん、なんか頭が固いな。まるで頑固ジジイやで。これからの時代は、勉強でも仕事でも、“いかに、短時間で成果を上げるか”に拘らなあかん時代や。」
「う~ん…私、頑固…ジジイ…ですか…。」
「そうや。増してや、ジブンとこ、鼻クソみたいに小っちゃな塾と言えども、一応、社員を抱えてる会社やで。死ぬほど、長時間働かせて、勝負する時期は終わってるやろ。」
「そうですけど…。」
「ええか、もっと頭を使って、どうすれば効率よく成績を上げられるかを考え。」
「そんなこと言われても…。」
「まあ、考えるためのヒントを与えとくわ。」
「はい。」
「テスト対策のやり方ちゅうのは、“個人塾なら複雑に、大手塾ならシンプルに”が基本や。」
「個人塾なら複雑に?」
「そうや。個人塾が大手塾に勝とうと思ったら、大手が真似できひん複雑なやり方、いや、玄人的と言った方がええかもしれんけど、そういうやり方でやらなあかん。だって、シンプルだと直ぐに真似されるから、個人塾の強みがなくなるやろ。」
「確かにそうですね。」
「一方、大手塾が複雑なテスト対策の仕組みを作ったら、それができる社員もいれば、できひん社員もいて、教室間格差も生まれるし、混乱するわけや。」
「なるほど。」
「で、ジブンとこみたいな規模の塾が、テスト対策のやり方としては一番難しいわけや。単なる個人塾でもないし、かといって、大手ちゅうほどの規模でもない。だから、中途半端なショボい塾は絶妙のバランスがいるんや。」
「う~ん…何だか悪口言われているような気がしますけど、まあ、そうかもしれませんね。」
「だから、時間を増やす方向性やのうて、どう一人ひとりに合った的確なテスト対策ができるんかが勝負の分かれ目や。しかも、なかなか大手が真似できひんやり方でな。」
■場面は、再び、キーツネと塩川サイド。
「キーツネさん、“個勉塾”の弱点が見えたとはどういうことなんですか?」
「奴らの弱点は、教室のスペースの割に、“生徒数が多い”ということだ。」
「えっ?どういうことですか?」
「しょうもない個人塾というのは、生徒数が少ない前提で作られているシステムが多い。だから、一杯生徒を教室に呼んで、一杯勉強させて、そういう力技で成績を上げようとする傾向がある。しかし、これは、あくまで教室の席が潤沢にあることが前提の仕組みだ。」
「なるほど。」
「だから、そのやり方は、生徒数が多くなってきたら通用しなくなるんだ。だって、そうだろ?自習にしても、テスト対策授業にしても、席がないんだから、更に塾での学習時間を増やそうと思っても、できないに決まっている。増してや、多くの中学校のテスト日程が重なる十一月のテストだぞ。奴らは本当にバカだ。アハハハ。」
「確かにそうですね。アハハハ。」
「キミは笑うな!」
「あっ、はい。」
「キミは何度言っても分からない。キミは病気か?」
「いえ、至って健康です!風邪も全く引かない健康優良児です!」
「ふぅ…。バカは風邪を引かないというからな。まあ、いい。」
「で、キーツネさん、我々は個勉塾の丸パクリのテスト対策をすればいいですかね?」
「そうだ。同じことをやれば勝てる。」
「はい、分かりました!早速、準備に入ります!」
■場面は、再び、タヌーキと我利サイド。
「タヌーキさん、具体的にはテスト対策はどうしたらいいですかね?」
「テスト対策自体の基本設計はそれほど変えなくてもええやろ。」
「はい。」
「問題は中身や。テスト対策は大きく二つに分けて考えなあかん。」
「はい。」
「一つは直前の土日までにやっておくこと。もう一つは土日のテストゼミでやること。」
「そうですね。」
「本来、直前の土日までにテスト勉強をしておいて、直前の土日に仕上げをするというのがベストや。」
「はい、その通りです。」
「たぶん、今はその基本が崩れてるやろ?社員も講師も、そして、生徒自身も、その土日でテスト勉強を本格的にする日になっているんと違うかな?」
「う~ん…そうかもしれません。」
「そんな感じやったら、いくらテストゼミで時間をとっても足らへんで。」
「確かに。」
「要は、一番大事なんはテスト二週間前からの勉強の取り組ませ方や。」
「はい。」
「とにかく、いかにして直前の土日のテスト対策ゼミまでに学校課題を終わらせて、尚且つ、ガキんちょ一人ひとりの弱点を補強できるか。そのためには、最低でも二週間前からのテスト勉強計画を立てさせてやらすことと、やるべき問題集や課題を可能な限り絞ってやることが重要と違うかな。」
「なるほど。」
「じゃあ、テスト勉強計画を立てる面談をやって、その進捗をチェックし、遅れている生徒は呼び出して、何としてでもやらせる形がいいんじゃないでしょうか?」
「そうやな。ただ、テスト勉強計画を立てる面談といっても、生徒数が多すぎたら、物理的にできひんのと違うか?」
「だったら、生徒自身で、もしくは講師と一緒に計画を立てさせる仕組みを作るのはどうでしょう?」
「まあ、それができたら一番ええやろ。」
「そして、どうしても学力が低くて計画を立てるのが難しい生徒や、成績が下降気味の生徒だけは社員が面談するというのでもいいかもしれません。」
「それもええかもしれんな。でも、後は、例えば講師と一緒に勉強計画を立てるとなったら、いつやるかや。授業中にそれをやってしまうと、授業が無駄になるやろ。」
「確かにそうですね。」
「さあ、どうする?」
「う~ん…それなら、計画の大枠だけ作っておいて、生徒自身が自分なりの計画を自分で立てられるようにして、授業中に講師がチェックするというやり方はどうでしょう?それなら、授業が潰れるほど、時間はかからないはずですし。」
「おお、それはいいかもしれんな。自分で勉強計画を立られてこそ、社会に出ても通用する力になるはずやしな。」
「はい!」
「じゃあ、その計画に沿った課題の進捗チェックはどうしたらええと思う?」
「う~ん…。あっ!」
「何や?」
「貼り出すのはどうですかね?」
「貼り出すって?」
「会社の中で営業成績を表す棒グラフみたいなやつがあるじゃないですか。よくドラマの営業会社のシーンで出て来るやつです。ああいう感じで、競争意識を持たせて、やるべき予定が完了したら、生徒自身にシールを張らせて、そうすれば我々も生徒一人ひとりの進捗が一目で分かりますし。」
「なるほどな。でも、ちゃんとそれをやらん生徒も出て来るやろ?」
「そこは担当講師にお願いして、徹底させるんです。」
「そうか。講師の協力か。」
「そうです。」
「まあ、そういうことなら、講師の協力をいかに仰げるかが、このテスト対策が成功するか、失敗するかの分かれ目やな。ジブン、徹底できるんか?」
「はい。何が何でも徹底させます!」
「じゃあ、やってみたらええ。」
「えっ?タヌーキさんがそんなあっさりオッケーするなんてどうかしたんですか?」
「何言うてんねん。我利ちゃん自身が考えて、それをやろうとするんやったら、わしが邪魔するわけないやん。上手くいくか、いかんかはやってみな分からん。何でもそうやけど、施策っていうのは、自分の頭で考えて、やることが重要なんや。失敗したら、また次の方法を考えたらええだけなんやから、とにかく失敗を恐れずにやってみることや!」
「分かりました!有り難うございます!」
確かに、このやり方がいいのかどうかは分からない。
いつの時代も、塾にとって、子ども達全員の成績を上げることは永遠のテーマだ。
しかし、塾の中には、全員の成績を上げることは無理だとか、この生徒はやる気がないから成績を上げるのは難しいとか、そういう判断をしてしまっている塾もある。
私自身は絶対にそんな塾にはしたくない。
いくら生徒数が多くても、生徒全員の成績を上げることを諦めずに、どうすればそれが達成できるのかを考え、試行錯誤しながら、取り組んでいくことが重要なんだと思う。
我々のそういう姿勢が講師達に影響を与え、生徒の心を動かし、成績というものは上がっていくんだと思う。
「よっし!“関ヶ原のテスト対策の戦い”、頑張るぞ!」
大手に勝つ戦略(その七)
一.とにかく成績を上げるべし。
二.そのために必要なのは、生徒のテスト勉強計画とその進捗管理。
三.個人塾のテスト対策は、大手塾が真似をしにくいやり方で。
中堅塾は真似はしにくいけど、可能な限りシンプルなやり方で。
四.成績アップのやり方に唯一の正解はない。生徒のために、良いと思ったことを思い切ってやるべし。
~大手塾VS個人塾~
第七ラウンドは、天下分け目の“テスト対策”の対決だ!
果たして、勝負の行方はいかに!
※来週月曜日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。