十四.第七ラウンド・・・天下分け目の “テスト対策”の攻防
■場面は、再び、“天下一個別”の本社ビル内。
「だから、塩川君、塾はとにかく成績アップに拘らなければならない。」
「はい。」
「その為の武器として、我々もAIを使った教務システムを開発したわけだからな。そして、その威力をこの地域に知らしめることができるのが、十一月末にある定期テストなんだ。」
「なるほど!次のテストが大勝負!言ってみれば、“第二次世界大戦”みたいなもんですね?」
「なんだ、それは?」
「えっ?やっぱり“関ヶ原の戦い”の方がしっくりきますか?題して、“関ヶ原のテスト対策の戦い”…なんちゃって!」
「何を言っているんだ!キミは!そういう戦争や戦に例えるなんて、不謹慎だろう!」
「あっ、すみません…。ついつい…。」
「何がついついだ。だいたい、いちいち何かに例えたり、変なネーミングを付ける必要なんてない!そういうのは、バカな素人がやることだ!」
■場面は、再び、“からくり屋珈琲店”。
「ヘックシュン!へ~クシュン!」
「タヌーキさん、大きなくしゃみして、風邪でも引かれたんですか?」
「いや、引いてへんはずや。誰かがわしの噂をしているんと違うかな。わし、人気もんやしな。」
「確かに、タヌーキさんって、色々な人から恨みを買ってて、悪役的な人気がありそうですもんね。ふふ。」
「アホか!わし、神様やで。誰が悪役やねん。わしはスーパーヒーローや。良い噂に決まってるやん!」
「そうですかね。(ニヤニヤ)」
「ジブン、何をニヤニヤしてんねん。このうだつの上がらんアホんだらが!」
「あっ、すみません。」
「ええか、しょうもないことを言ってんと、次のテストでどうやって点数を上げるんかを考えなあかん。」
「確かに、そうですね。」
「で、何か考えてることはあるんか?」
「ええまあ。」
「ほほ~、考えがあるなんて、ジブンにしては珍しいやないか。」
「はい、私だって、こう見えて十一年も塾を経営しているんですから、考えの一つや二つくらいありますよ。」
「ひゃー、ダメダメ経営者のくせして、これまた強く出てきたな~。」
「いくらタヌーキさんでも、その言い方は失礼でしょ!」
「だって、本当やん。ジブン、相変わらずオーラの欠片もあらへん、ブサイクな顔した社長やん。おまけに金もないしな。そんな社長やから、社員も泣いてるで。」
「はあ…。相変わらず、タヌーキさんは私の心にグサグサ刺さる言い方をするんですね。ほんと、嫌になりますよ。」
「ジブン、もっと自分自身の姿を認めなあかんで。人間ちゅうのは、ちょっと立場ができたら、ジブンがイケメンになったと勘違いしたり、偉くなったと思い込む輩がいるけど、はっきり言って、全部妄想や。ブサイクな奴はブサイク。偉くない奴は偉くない。そんなもんや。」
「はい、分かりましたよ。私はどうせオーラもなくて、ブサイクで、金もなく、偉くもなく、この世に大きな迷惑をかけているクズ人間です。クズのクズ、大クズです!」
「ジブン、そこまで卑下せんでいいやん。ジブンかて、良いところくらい、鼻クソくらいはあると思うで。アハハハ。」
「もういいです!何の慰めにもなっていませんから!」
「まあ、ええわ。無駄話はこれくらいにしてんか。」
「ふぅ…。(何なんだ、この神様は…。)」
「で、ジブンの考えとやらを聞かせてもらおうか。」
「はい。」
■場面は、キーツネと塩川サイド。
「さて、塩川君、そろそろテストの点数を上げるための具体的な話をしようか。」
「はい、お願いします。」
「いいか、さっきから言っているように、ミーたちには、AIを使った教務システムという武器がある。この武器のおかげで、普段の授業の精度はかなり上がっているはずだ。」
「はい、それに関してはかなりの手ごたえがあります。」
「そうだろう。ただ、テストの点数を上げるためには、それだけでは不十分だ。何が必要だと思う?」
「それは、やっぱり最後の一押しの“テスト対策”が重要かと思います。」
「そうだ。本来は授業だけで成績を上げるものだが、成績アップの観点からも、地域の評判作りの観点からも、やはりテスト直前の土日を利用したテスト対策のイベントが重要だろう。」
「はい、その通りでございます。」
「そこでだ。キミに確認したいんだが、今まで“天下一個別”はどのようにテスト対策をしてきたんだ?」
「はい。追加授業を取ってくれた生徒はもちろん講師を付けて授業をしています。それ以外の生徒に関しては、希望者のみですが、土日に教室解放を行い、テスト勉強をさせています。」
「テスト勉強とは?」
「まあ、自分でテスト勉強をするので、自習みたいなものですね。」
「そこに、講師は呼んでいるのか?」
「はい。多少の質問も受け付けていますので、テスト対策の監督として一名の講師を配置しています。」
「う~ん…。」
「おっ!キーツネさんが唸っているということは、結構バッチリということですかね!」
「いや、普通すぎて、声が出ないだけだ。」
「えっ?」
「その程度で、“個勉塾”に勝てるわけないだろ。」
「そうですか?他の大手塾もだいたいこんなもんですが…。」
「だから、ダメなんだ。今の時代、大手塾だけを見ていたら、地域の個人塾に負けてしまう。個人塾は、規模も教室の造りもショボショボだが、こういうテスト対策には手が込んでいるはずだ。」
「なるほど。」
「いいか、ミーたちがコテンパンにやっつけなければならない相手は“個勉塾”だ。最低でも、ここと同レベルのテスト対策をやらなければならない。」
「同レベルでいいんですか?」
「もちろん、それ以上に越したことはないが、別に同レベルでいい。同レベルのものが提供できたら、最終的にはブランド力や規模が大きい大手が勝つ。商売というのは、そういうものだ。」
「はるほど、なるほど。じゃあ、丸パクリしましょうかね。」
「そうだな。ちなみに、“個勉塾”はどんなテスト対策をやっているんだ?」
「はい。私の調査によりますと、テストの二週間前の土曜日には、学校課題を演習させていて、直前の土日には、“テスト対策ゼミ”という名前で、生徒を呼んで勉強させているようです。」
「それは、講師をつけているのか?」
「はい。だいたい生徒六人くらいに対して先生一人を付けているようです。演習中心のやり方だと思いますが、その人数なら講師も教えたりしているでしょうね。」
「それは無料なのか?」
「はい。そのようです。」
「じゃあ、うちも無料にしろ。」
「はい。」
「で、その対策は、どれくらいの時間やっているんだ?」
「たぶん、四コマ分だと思いますので、およそ六時間くらいでしょうか。」
「うちは、どれくらいの時間、教室を開放しているんだ?」
「はい。うちは3コマ分なので、四時間半ですね。」
「そうか。じゃあ、時間数も同じにした方がいい。」
「はい。」
「他には?」
「はい。テストの二週間前からは“テスト勉強会”と称して、一杯自習に来させているようです。」
「ん?自習に?」
「はい。結構、呼んでいるようなんですよね。それがある意味、面倒見がいいという評判を作っているようで。しかも、今まで四コマやっている土日の“テスト対策ゼミ”も時間を増やす動きがあるようで…。」
「そうか。ふふ…奴らの弱点が見えたぞ。」
「えっ?弱点ですって!」
※明日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。