それから三日後。
■場面は“からくり屋珈琲店”。
タヌーキと我利勉は、再び“ここに集まっていた。
「タ、タ、タヌーキさん!聞いてください!」
「何やねん。毎度、毎度、鼻の穴膨らませて、発情期のサルみたいな声を出しよってからに。」
「あっ、すみません!」
「で、どないしたんや?」
「それが分かったんですよ!“天下一個別”の戦略が!」
「おお、そうかいな、そうかいな。で、どんな戦略や?」
「はい、ロボットです!」
「ロボットやって?!」
「はい!」
「もしかして、マジンガーZか?それとも、ロボコンか?」
「タヌーキさん、古いですね~。もっと最新式ですよ。」
「何やて!新しいタイプのロボットかいな。それで奴らは地球を滅ぼそうとしてるんかいな。」
「いやいや、地球を滅ぼすなんて、大袈裟な。単に個別指導塾で活躍するロボットですよ。」
「ん?個別指導塾で活躍?何や、それ?」
「はい、私も教材会社の人から聞いただけなんで、よく分からないんですが、何か凄いロボットらしいんです。」
「だから、何がどう凄いねん。」
「何でも今流行のAIらしくて…。」
「イヤン!!ジブン、そんな話、大きな声でするもんやあらへんで。」
「はっ?」
「だから、周りに人がいるんやさかい、もっと小声で話せって言ってるんや。」
「あの~、何か勘違いされてません?」
「勘違いもクソもあらへんがな。で、そのAVって何系や?」
「プッ…。やっぱり勘違いしているじゃないですか。」
「何がや。」
「私が言ってるのは、AVじゃなくて、AIですよ。」
「えっ?それって、AVよりハードなやつなんか?」
「ハードとかって意味わかりませんよ。タヌーキさんが想像しているようなイヤラシイものじゃなくて、人工知能のAIですよ。」
「ひゃー!!!やめて!!!それ以上、言わないでー!!!」
「もういい加減にしてください。」
「はい。」
「恐らく、タヌーキさんはご存知ないと思うんですけど、人工知能というのは、“コンピュータを使って、学習・推論・判断など人間の知能のはたらきを人工的に実現したもの”で、つまりは、人間よりも優れた、いや、正確な判断ができるといった方がいかもしれませんんね。それを使ったロボットの教務システムらしいんです。」
「ふ~ん…。」
「あなた、よく分かってませんよね?」
「分かってるって。まあ、要するにラッパー君みたいなもんやろ?」
「それを言うなら、ペッパー君ですけどね。」
「名前なんて何でもええわ。」
「はいはい。」
「でも、なるほどな。」
「えっ?何がですか?」
「向こうの教室長がショボショボやから、とうとうキーツネがしびれを切らして、ロボットに教室責任者を任せるわけや。」
「いやいや、そんなわけないでしょ。教材会社の話だと、本当にロボットかどうか分かりませんが、正確な個別カリキュラムを提示するものじゃないかということなんです。」
「ふ~ん…。それの何が凄いんや?」
「そりゃ、凄いでしょ。生徒一人ひとりの躓きを分析して、遡行学習の指示を出したり、やるべき宿題が選定されるわけですから、成績が上がるに決まっているじゃないですか!」
「まあ、それは確かになかなか優れもんやな。マジで成績上げようと思ったら、的確、且つ、迅速な遡行学習が必要やからな。」
「そうなんです。やはり、向こうはとんでもなく強力な“商品”を持って来たんです。どうしましょう?」
「う~ん…う~ん…。」
「どうしました?さすがのタヌーキさんでも言葉が出ませんか?」
「おお、言葉は出えへんけど、ウンチが出そうや。う~ん…う~ん…。」
「こんなところで気張るのはやめてください!早くトイレに行って来てくださいよ~!」
「あっ、そうやな。ここはあかんわな。」
「早く!」
「ちょっと待ってってや。」
「はい、はい。」
■場面は、“天下一個別”の教室。
キーツネと塩川は、業者がタブレットPCに教務システムを設定しているのを見ていた。
「キーツネさん、システム設定が完了したようです。」
「そうだな。後は、全講師にこのシステムの使い方を研修して本番に臨めばいい。研修日は決めているんだろうな?」
「はい、その点も抜かりありません!本日、全講師を呼んでいますから。」
「よし、オッケーだ。これでとにかく次の定期テストで確実に生徒の成績を上げるんだ。新聞折込チラシにもこの確実に成績が上げるシステムを大々的に載せろ。」
「はい。任せてください。…あれ?」
「どうした?」
「はい、肝心のロボットがまだ到着していないんです。」
「はあ?キミは何を言っているんだ?」
「前にキーツネさんが仰っていた例のAIロボットです!」
「だから、それが、今、PCにセッティングした教務システムのことだろ!」
「ええー!!!ロボットじゃないんですか!!」
「当たり前だ。ほんと、できない奴と絡むのは疲れる…。」
「へ~、ロボットじゃないんだ。そうなんだ。あっ!そうか!パソコンの中にロボットを仕込んだんですね。」
「まあ、何でもいい。そんな感じだ。」
「へ~、凄いな~。」
「それでだ、塩川君!」
「はい!」
「キミに確認しておきたいんだが、個別指導塾の商品って何だと思う?」
「それは講師でしょう。」
「昔はな。」
「昔?」
「そうだ。もちろん、今も厳密に言うとそれは間違いではない。」
「はい。」
「でも、今は成績が上がるシステムの方がメイン商品だ。つまり、今やどこの個別指導塾も講師の質なんてそれほど変わりがない。だから、講師の指導力に拘っていて、それを商品と言っている以上、他塾には勝てない時代に入っているんだ。」
「なるほど。」
「まあ、要するに人間の講師にはホスピタリティ精神を植え付けて、この確実に成績が上がるAIの教務システムがあれば最強の商品というわけだな。これで“個勉塾”に負けるわけがない。」
「う~ん、ブラボーです。さすが我が“天下一個別”です!」
「そうだ。これが個人塾が逆立ちしても真似のできない大手の戦略なんだ。アハハハ。」
「そうですね!アハハハ。」
「ミーと同じ笑い方をするな。」
「あっ、すみません…。」
※明日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。