十一.第五ラウンドの終了
十月に入った。
第五ラウンドは、“天下一個別”と“個勉塾”、どちらが生徒や保護者からの信頼を勝ちとれるかという戦いだった。
この戦いでは、“天下一個別”は講師達を洗脳し、訓練し、ホスピタリティを強化しての教室運営を行っていった。実際、おもてなし的には、講師達の動きは申し分なかった。
しかし、この第五ラウンド、“天下一個別”は、思うように生徒数は伸びなかったのだ。
それは、恐らく“個勉塾”の戦略の方が勝っていたからだろう。
個勉塾には個別指導の神様・タヌーキがついている。
この変な神様が、この戦いで“個勉塾”の代表・我利勉にアドバイスした戦略は、“魔法の手帳”。
これは、単に“手帳の活用方法”を伝授したに過ぎなかったのだが、明らかに生徒や保護者の信頼度は高まっていた。
■場面は“からくり屋珈琲店”。
「タヌーキさん、有り難うございます!」
「ん?何が?」
「タヌーキさんからアドバイスいただいた“手帳の活用”ですが、これのおかげで、生徒や保護者からの信頼度が高まっているのがヒシヒシと感じられるんです。実際、紹介も出だしましたし、生徒数も増えてきています。」
「そうか。まあ、良かったな。」
「はい。でも、本当にタヌーキさんの言う通りでしたね。私、手帳のアドバイスを受けた時は、“こんな戦略で大丈夫かな?”って、正直言って半信半疑だったんですが、手帳の威力って凄いですね。」
「そうやろ。」
「手帳に、“小さな約束”の一つ一つを記入して、それをちゃんと守るだけで、何だか生徒も保護者も嬉しそうなんですよね。まるで魔法のようでした。こういう積み重ねが信頼につながるんですね!」
「そうや。我利ちゃん、わし、やっぱり凄いやろ?」
「あっ、はい…。」
「わし、最高の神様やと思わへん?」
「ええ、まあ…。」
「何やねん!そのテンションの低い受け答えは!」
「だって、神様なのに、自分の凄さをアピールして来られると、何だか価値が下がるというか…。」
「はあ?わしの価値が下がるってか!ジブン、何で、いっつも、わしの気分を悪くさせんねん。」
「あっ、すみません…。そんなつもりはないんですが…。」
「まあ、ええわ。パフェおごって!。」
「またですか?」
「早よ、おごって!」
「もお~、駄々っ子ですね…。とほほ…。」
■場面は変わって、“天下一個別”の本社ビル内。
会議室で参謀・キーツネと営業本部長の塩川が話をしている。
「塩川君、ミーたちの戦略は完璧だったはずだ。」
「はい、キーツネさん、完璧でした。」
「それなのに、何故、“個勉塾”に勝てない?」
「う~ん…何故なんでしょうか?」
「キミのパフォーマンスが悪いのか、ミーの戦略が甘いのか…。まあ、いずれにしても、今回も我利勉、いや、タヌーキにしてやられた。」
「はい、残念ながらそのようで…。」
「まあでも、よく立て直したもんだ。手帳を使って、生徒や保護者の信頼を勝ち取る戦略とはな…。」
「はい…。」
「本当にタヌーキらしい泥臭い戦略で、へどが出そうだ。」
「確かに。オエ~。」
「やめろ!塩川君、汚いじゃないか!」
「あっ、すみません。本当に吐きそうだったもんで。昨日、飲み過ぎちゃったんですよね~。」
「いい加減にしろ!いいか、ミーたちは大手中の大手、“天下一個別”のメンバーだ。塩川君、もっと品格を持て!」
「あっ、はい、すみません。」
「タヌーキ、そっちが泥臭い戦略でくるのなら、こっちはあくまでも大手らしいスマートなやり方で勝負するのみだ。最後は、やはり洗練された戦略と資金力がある方が勝つんだ。思い知らせてやる!なあ、塩川君!」
「アイアイ、サー!」
※明日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。