八.第四ラウンド・・・秘密兵器の攻防(ニンジン大作戦VS愛の汎用名簿)
■場面は、“からくり屋珈琲店”。
我利勉はタヌーキと会っていた。
「タヌーキさん、我々の完敗です。」
「完敗?」
「はい。退塾者が多く出てしまい、生徒数が減ってしまいました。」
「ふ~ん…何があったんや?」
「春先に生徒が増えたのと、テスト対策に外部生を呼びこんだのとが相まって、子ども達一人ひとりをちゃんとコントロールできませんでした。それによって、成績不振者が続出し、退塾が増え、“天下一個別”に生徒が流れて行っているんです。」
「なるへそ、なるへそ。」
「本当にすみません。参謀であるタヌーキさんの顔にも泥を塗る形になってしまって…。」
「わしの顔はええねん。もともと泥パックを顔に塗ってお手入れしてるさかいに。」
「いやいや、その美容の泥のことじゃないですよ。」
「ああ、そうなん。まあ、どっちの泥でもええねんけどな。」
「もう~。」
「まあでも、しゃーないわな。」
「いえ、しょうがなくはないですよ。もっと社員達がしっかりやっていればこんなことにはならなかったんです。」
「そうかもしれんけど、そうカリカリしても何にもならんやん。それに、わしの中では、まあ想定内やで。」
「えっ?想定内?」
「そうや。ある程度こうなることは予測しとったがな。」
「そうなんですか!」
「そりゃそうやで。わし、個別指導の神様やで。いろいろなケーススタディを持ってるさかい、ジブンみたいなショボい代表がやってる塾がどうなるかくらい分かるに決まってるがな。」
「はあ?分かっていたんだったら、最初にもっと言っておいてくださいよ。そうしたら、私だって、手が打てたんですから。」
「言ったやん。五月決戦の戦略をアドバイスした時に、テスト対策もちゃんと頑張りやって。」
「あっ、そういえば、確かに言われたような気が…。」
「そうやろ。それをジブンが無視したんやがな。」
「いえ、無視したわけではないんですが、テスト対策は塾としての基本なんですから、現場では当たり前のようにちゃんとやってくれていると普通は思うじゃないですか?」
「その“普通は…”という感覚が命取りやねん。リーダーたるもの、部下は信頼せなあかんけど、部下の仕事を信用し過ぎたらあかん。それがリーダーの姿勢としては基本中の基本や。」
「う~ん…。今回ばかりは、反論の余地はありません…。」
「それはそうと、どないやねん?」
「えっ?何がですか?」
「社内の状況やがな。」
「いや~、それは最悪ですよ。前にタヌーキさんに、うちの社員達も成長してきたって主張して喧嘩したことありましたよね?」
「おお、この前の話やな。」
「はい。あれは撤回させてください。」
「ん?」
「あいつら、やっぱり全然ダメです。管理職としての自分の姿勢や至らなさに目を向けず、講師が悪いとか、部下の動きがイマイチだとか、挙句の果てに戦略にまでケチをつけ出して、他責性の塊ですよ。ほんとレベルの低い教室長達なんですよ!」
「うひゃひゃ…。」
「タヌーキさん、何を笑っているんですか?しかも、気持ちの悪い笑い方しないでくださいよ。」
「だって、笑けるやん、ジブン。」
「えっ?私の何が笑えるんですか?」
「同じやもん。」
「同じ?」
「そうや。ジブン、社長としての自分の姿勢や至らなさに目を向けず、教室長達の悪口ばかり言ってるやん。それ、完全に他責性やん。」
「うっ…。」
「そんな姿勢で上手くいくわけあらへんやん。」
「確かにそうですけど…。」
「まあ、気ぃつけな、小さい組織ちゅうのは、悪循環に入ると、崩壊し出すのは早いからな~。人間関係のギクシャクがもとで、そうなるのはよくある話や。SMAPだってそうやろ。」
「ありゃ~、これまたタイムリーな話題ですね…。」
「とにかく、このままいったらヤバいで。キーツネの思うつぼやで。」
「思うつぼ?」
「そうや。キーツネは個勉塾社員の士気を下げて、組織をバラバラにしようとする戦略を取ってくるはずや。」
「えっ?バラバラですか?!」
■再び、“天下一個別”の本社ビル内。
「じゃあ、塩川君、そろそろ第四ラウンドの戦いに入ろう。」
「はい、よろしくお願いします。」
「いいか、前にも言ったと思うが、個人塾もどきの弱点は、お金と人や。」
「はい。」
「お金に関してはタヌーキがついている以上、そんな無茶はさせないだろう。仮にさせるにしても、あいつはすぐに銀行から借金をさせるから、資金的にはなかなか底はつかないはずだ。」
「はい、なるほど。」
「その点、“人”の問題はどうしようもないんだ。我々のような大手塾なら、代わりの人材はいくらでもいる。しかし、個人塾もどきだと、代わりがいないだろう?」
「そうですね。」
「ということは、社員達の士気さえ下げられれば、あそこは潰れていく。」
「う~ん、なるほど。勉強になります。」
「だから、第四ラウンドでは、奴らの士気を徹底的に下げる戦略を取る。」
「はい、その戦略とは?」
「ずばり、もっともっと“個勉塾”の生徒数を減らすことだ。攻撃の手を緩めずに、更に営業戦略を強化していく。あいつらは生徒数が減った経験がないから、どんどん減っていくと益々動揺する。そうすると、より団結力は失われ、気持ちが後ろ向きになっていくはずだ。」
「なるほど。キーツネさんもかなりの意地悪ですね~。この悪代官様!アハハ。」
「だから、むやみに笑うなと言ってるだろう!しかも、ミーは神様だ。悪代官ではない!」
「あっ、すみません。失礼しました。で、我々は具体的にはどうすれば?」
「まあまあ、そう答えを急ぐな。」
※明日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。