七.第三ラウンドの終了
六月の半ばに入った。
第三ラウンド「五月決戦」では、今まで劣勢だった“天下一個別”の戦略が功を奏していた。
その戦略とは、何の広告宣伝も打たずに、とにかく今いる生徒を補習に呼び、成績を上げることに拘った戦略だ。
我利勉とタヌーキは、“天下一個別”は資金力を活かし、五月も大量のチラシを投下したり、校門前で豪華景品付きのビラを配るという動きをしてくると踏んでいたのだが、まんまとその裏をかかれた形になった。
そのことで、我利勉率いる“個勉塾”の社員達は浮き足し立ってしまった。
そして、春の募集期で生徒数が増えたことと、今回のテスト対策に外部生を呼びこむ戦略を取ったことで、教室には勉強習慣がついていない生徒が大量に増え、テスト対策が上手く回らず、教室は大混乱に陥ったのだ。
そんな中、六月に入り、“天下一個別”は満を持して“転塾キャンペーン”を打ち出した新聞折り込みチラシを打ってきたのだった。
その結果、“個勉塾”を退塾する生徒が増え、彼らの多くは“天下一個別”に流れていった。
そう、第三ラウンドは、“天下一個別”の圧倒的勝利で終わったのだ。
■場面は、“個勉塾”の教室長会議。
「早く立て直さなければ、“天下一個別”にやられる…。」
営業本部長の下村から開口一番に発されたこの言葉が、今の“個勉塾”の現状を物語っていた。
そう、今回、退塾者が多く出たことで、社内の雰囲気は最悪の状態になっていたのだ。
会議が進行していく中で、各教室長から、教室状況の報告がなされていた。
「今回退塾が出たのは五件で、理由の多くは、教室がうるさくて、勉強できないというものでした。生徒の管理が不十分でした。すみません…。」
「うちの教室は退塾者が七名。理由としては、成績不振です。テスト対策がきめ細かくできなかったので、成績を上げてやれませんでした。すみません…。」
「うちは十名です。理由は、思ったようにテスト対策をしてもらえなかったという声が多かったです。私なりにはやったつもりですが、講師を上手く動かせていませんでした。すみません…。」
一通り、教室長が発表した後、また下村が話をし出した。
「各教室ともに、表現は違うけど、テスト対策が上手く回らず、成績を上げてやれなかったということが原因だよね?」
「はい。」
「じゃあ、何故、テスト対策が上手く回らなかったんだろう?」
「春に生徒が多く入塾して来て、しかも、今回は外部のテスト対策生も呼び込んだので、一人ひとりに対して適切なテスト対策ができなかったんだと思います。」
「でも、それは初めから予測できたことだよね?講師にも協力を仰ぐなどして、それに対して手は打てなかったの?」
「はい、うちは、講師にも協力をお願いしていたんですが、生徒が騒がしくしていることに対して誰も注意できなくて…。とても集中して勉強できる環境にはなっていませんでした。もっと講師達がしっかりしてくれさえいたら、こんなことにはならなかったんですが…。」
「私のところも、講師達の動きがイマイチで、中にはテスト範囲と違うところをさせている講師などもいて、それに気づいた時にはもうテスト直前で、どうしようもありませんでした。あとは、正直、社員同士の連携も不十分でしたし、皆、自習対応に追われまくってしまい、一人ひとりをちゃんと見るということができていなかったのも原因です。」
「私の教室は正直あまり講師を巻き込めていなかったと思います。基本的にはテスト対策プリントの準備も自分だけでやりましたし、土・日のテスト対策ゼミにも講師があまり入ってくれなくて…。もっと彼らが協力してくれれば、こんなことには…。」
教室長の報告が終わり、下村が話をし出した。
「まあ、要するに、皆の話を聞いていると、講師のせい、部下のせい、と言っているわけで、教室責任者である自分達の責任じゃないの?」
「・・・・・。」
皆、黙っていた。
※明日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。