四.第二ラウンド・・・入塾面談の攻防
■場面は“ラーメン関脇”。
私はタヌーキと一緒にラーメンを食べていた。
「我利ちゃん、急に呼び出して悪かったな。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。いつもお世話になっているタヌーキさんのお呼びなら、ラーメンくらい、いつでもお付き合いしますよ。ラーメンご馳走様です!」
「えっ?ご馳走様ってどういうことや?」
「どういうことって、おごっていただけるんでしょ?」
「何でや?」
「いやいや、何でやじゃないでしょ。普通、誘ってきた人がおごるもんでしょ?」
「そんなん、誰が決めたん。わし、おごるつもりないし。と言うか、おごってもらうために誘ったんやし。」
「そんな無茶苦茶な。」
「ジブン、だいたい、ラーメンくらいでせこいこと言うなや。」
「そうですけど…。」
「それに、このラーメン屋、何やねん。」
「えっ?不味かったですか?」
「いや、めっちゃ美味かった。でも、名前があかんわ。」
「名前ですか?」
「そうや。何で“横綱”やのうて、“関脇”やねん。百歩譲って、“大関”なら、許せるけど、“関脇”って、中途半端すぎるやろ。」
「そんなの放っておいてあげてくださいよ。屋号なんて好きにつけていいもんじゃないですか!」
「そりゃ、自由やけど、ジブン、“名は体を表す”って諺知らんか?」
「知ってますけど。」
「具体例挙げたろか?だいたい、“我利勉”って名前、何やねん。“がり勉”みたいやん。そんな名前やから、ジブンはオーラがなくて、小物感満載やねん。」
「ぎょえーー!私の名前の否定ですか!!!」
「否定やあらへんけど、“名は体を表す”の具体例を挙げてんねん。それに比べて、“武太ちゃん”を見てみいな。」
「“武太陽子”ですか?」
「そうや。名前に“太陽”が入ってるやろ。だから、“太陽”みたいに輝いているし、会議でも彼女が発言すると、ビシッと引き締まるんや。それに比べてジブンは…。」
「あっ、この前の会議の様子を見てらっしゃったんですか?」
「そうや。ジブン、へぼすぎるやろ。皆の様子を見て、ちょっと安心してたやろ?」
「ええ、多少は…。」
「だから、あかんねん。」
「あっ、はい…。」
「で、ラーメン屋の話に戻すんやけどな。」
「ひゃー!!話をまたラーメン屋に戻すんですか!私、屋号の話はどうでもいいですけど。」
「まあ、ええから、ええから。あんな、屋号が“関脇”では、ラーメン界で天下は取れんわな。」
「“天下”ですか…。」
「あっ…“天下”と言えば、“天下一個別”のことやけどな。」
「はあ?何ですか、この流れは…。タヌーキさんは、最初から“天下一個別”の話がしたかったんでしょ?」
「まあ、そうやな。」
「だったら、そんな回りくどい話をせずに、最初から言ってくださいよ。本当に面倒くさい人ですよ。」
「・・・・・。」
「あっ、“人”じゃなかったですね。“神様”でしたね。」
「そうや。ジブン、いつも同じ間違えしてる…。ウジウジ…。」
「あ~、面倒くさい。これくらいのことで、いちいち、すねないでください!」
「・・・・・。」
「分かりました。すみませんでした!」
「えっ?聞こえへん。」
「す・み・ま・せ・ん・で・し・た!!!」
「まあ、分かればええねん。ジブン、以後、気ぃ付けや。」
「はい、はい。」
「で、“天下一個別”の話やけどな。」
「はい。」
「奴ら、次にどんな手を打ってくるか分かるか?」
「いえ、さっぱり分かりません。」
「じゃあ、手始めに、その考え方を教えたろ。」
「はい、お願いします。」
「まず、ジブンとこの、ウイークポイントを考えてみるんや。奴らは必ずそこを突いてくるはずやからな。」
「はい。」
■場面変わって、“天下一個別”の本社ビル・戦略参謀室。
「さあ、塩川君、今日はプランBの話をしよう。」
「はい、キーツネさん、よろしくお願いします!」
「あっ、その前に、頼んでおいたことを調べてくれたか?」
「はい、“個勉塾”についてですよね?」
「うん、そうだ。」
「はい、どうやら、あの塾にも参謀らしき人物がいるようで…。」
「ん?参謀?」
「はい、そうなんです。どうやら、今回のチラシの件も、その参謀の考えじゃないかと。」
「なるほど。やっぱりそうか。あの我利という男のレベルだと、あのチラシの打ち方はできないからな。」
「そうですね。」
「で、その参謀とやらは、誰なんだ?」
「それが…分からないんです。」
「えっ?分からないだって?」
「はい、“個勉塾”の教室にはそういう人物は出入りしていませんし、個勉塾の関係者を装って、アルバイト講師にも聞いてみたんですが、そういう人物は見たことないらしく…。」
「じゃあ、いったい参謀の話は誰から聞いたんだ?」
「はい、教材会社から、まことしやかにそういう噂があるとだけ聞いたんです。」
「う~ん…益々怪しい。ただ、分からないものは仕方がない。塩川君、この件については引き続き調査してくれ。」
「はい、分かりました。」
「さて、本題に入ろう。」
「はい。」
「まず、彼らの現在の心境を考えることだ。」
「はい、彼らというのは?」
「個勉塾の連中に決まってるだろ!」
「あっ、はい、すみません!」
「で、どういう心境だと思う?」
「・・・・・。」
「塩川君、何、黙ってるんだ?」
「はい、しっかり考えてみているんです。」
「まあいい。時間の無駄だ。私が誘導するから、答えてくれ。」
「はい。」
「彼らの塾は、チラシ枚数を増やした分、多分、問合せが前年よりも増えているに違いない。そうなると、どんな気持ちになる?」
「う~ん…喜んで調子に乗っているでしょうね。楽勝、楽勝、みたいな感じで。」
「そうだろうな。そして、そういう状態になったら、必ず隙が生まれる。どんな隙だと思う?」
「問合せが多いと、“問合せ対応”や“入塾対応”が雑になるかと…。」
「おお!塩川君にしては珍しく正解じゃないか!どうした熱でもあるのか?」
「いえ、熱はないのですが、少々下痢気味でして…。」
「汚い…。君はやっぱり下品だ。」
「すみません。」
「まあでも、答えは合っている。入塾周りの対応が雑になるわけだ。」
「はい。」
「ということは、分かるだろ?ずばり、彼らのウイークポイントは何だ?」
「はい、分かりません!」
「やっぱり、君はバカか!!!」
「すみません…。」
「彼らのウイークポイントは、“問合せ対応”と“入塾面談”だ。」
※明日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。