三.第一ラウンドの終了
(三月中旬)
超大手個別指導塾の“天下一個別”がこの京都市川科区に開校してから、約一ヶ月が経過した。
この期間、“天下一個別”は、思ったような数の問合せを獲得することができなかった。
第一ラウンドは、ひとまず。“個勉塾”の勝利といったところか。
■場面は“天下一個別”の本社ビル内。
「キーツネさん!大変です!大変です!問合せ目標から大きく下回ってます!」
関西の営業本部長・塩川が慌てて個別指導の神様・キーツネがいる本部参謀室に入ってきた。
「塩川君さあ、ノックくらいしてくれる?ほんとに君は品のない男だ。」
「あっ、すみません!でも、大変なことに!」
「まあ、落ち着きなさい。何が大変だって騒いでるんだ?」
「はい、問合せ数が!!」
「だから、何?」
「問合せ数が目標から大きく下回っているんです!」
「えっ?!何だって!…何故だ?」
「はい、たぶん原因はこれじゃないかと。」
塩川は手に持っていた“個勉塾のチラシ”をキーツネに見せた。
「うっ、これは…。最大二ヶ月無料体験だって?!何とこしゃくなまねを…。」
「はい、こしゃくです!」
■場面は変わって、“からくり屋珈琲店”。
「タヌーキさん!見てください!問合せ数が昨年の一.五倍で推移してます!」
「そりゃそうやろ。昨年の二倍のチラシを投下したんやから、当たり前やん。ジブン、相変わらず頭悪いちゅうか、キモいちゅうか。」
「そうなんですけど、これも見てください!」
「ん?何?」
我利勉は“天下一個別のチラシ”をタヌーキの目の前に差し出した。
「“天下一個別のチラシ”です。」
「見たら、分かるがな。」
「ですね…すみません。それでね、タヌーキさんが予測したように、向こうは無料体験一ヶ月にしてきてるんです!」
「やっぱりな。」
「はい。それに、今のところのチラシ折込回数もうちの方が多いですし、こちら側の完全な読み勝ちです!アハハ、ざまあ見ろ!って感じですよね。」
「ジブン、アホかいな。まだ1ヶ月しか経ってへんのに、何を浮かれてんねん。向こうは超大手や。ましてや、キーツネがいるわけや。第1ラウンドで勝ったからって、調子に乗ってたら痛い目に会うで。ほんまに、これやから、育ちの悪い奴はあかんねん。」
「あの~。」
「何やねん。」
「お言葉を返すようですけど、私、こう見えて、結構、育ちは良い方なんですけど…。」
「はあ?どこがどう育ちがいいって言えるねん。ショボい顔してからに。」
「ショボいかもしれませんけど…、実は、私の祖父はうちの田舎の初代町長ですし、父親も校長まで務めた教育者ですし…。」
「うっ…。町長?!校長?!」
「はい、そうなんです。タヌーキさんが期待してたような育ちじゃなくて…ご期待に添えず、すみません。」
「ふ~ん…まあ、ええわ。劣性遺伝ちゅうか、世の中、何かの間違いも起こるもんやで。」
「ふふ、そうですね…。」
「でもな、とにかく、浮かれてたらあかんで。“天下一個別”は、いや、キーツネなら、必ずすぐに次の手を打ってくるはずや。」
※明日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。