■キーツネと塩川サイド。
「個人塾がそういう意識になればなるほど、大手塾にとってはチャンスだ。何故なら、内部充実という曖昧な戦略では生徒数は増えないからだ。」
「なるほど、そうですよね!」
「じゃあ、ここまで話したことで塩川君も分かるだろう?ずばり!個勉塾の一番の弱点は何だ?」
「う~ん…知名度ですかね?」
「違う!キミ、さっきから間違い過ぎ!ほんと、イライラする…。」
「あっ、すみません!」
「知名度って、その地域でずっとやってたら、それなりにあるだろう。」
「はい、確かに…。」
「逆に、我々みたいに関東から出てきた塾の方が知名度が無かったりする…。」
「はい…。」
「つまり、個人塾の弱点は知名度じゃない。一番の弱点は単純明快。お金だ!」
「お金?」
「そう。潤沢な資金がないから、何をやるにも、思い切ってお金を使えない。それが“個勉塾”レベルの塾の最大の弱点だ。」
「確かにそうですよね!」
「その点、我々のような大手になると、使える資金のケタが違う。だから、お金で勝負するのが鉄則なんだ。」
「なるほど、なるほど。」
「今回の講師募集もそうだろ?この鉄則にそって、お金にものを言わせた戦略を取ったまでだ。」
「確かに!」
「だから、同じように生徒募集についてもお金をかけることが重要なんだ。」
「はい、分かりました。」
「具体的には二月中旬の開校日から四月にかけて、計十回、新聞折込チラシをぶっこむこと。恐らく、“個勉塾”は例年通り六回のチラシだろうからな。ふふふ。」
「はい、その段取りで動いています。」
「じゃあ、チラシの制作も私の指示通りに進めてくれてるよね?」
「はい、通常チラシの二倍の大きさのB3サイズにするっていうやつですよね?」
「そうだ。」
「でも、聞くところによると、B3サイズにしたからと言って、飛躍的に問合せ数が増えるということはないらしいですけど。」
「そう、それも織り込み済みだ。」
「えっ?どういうことですか?」
「多少費用対効果が悪くなっても、最初はとにかく目立つ方がいい。そして、大手塾らしいスケール感を出す方がいい。つまり、インパクトのある方が人々の印象に残りやすいわけで、後々、それが活きてくるということだ。」
「なるほど、そういうもんですか。」
「そうだ。あと、チラシに入れる内容も重要だ。個勉塾はどんな感じだった?」
「はい、キーツネさんに言われた通り、過去の“個勉塾”チラシを入手して、調べました。」
「うん、それで?」
「そうですね~、さすがに関西で最大級の生徒数を集めているだけあって、なかなか良くできたチラシでしたよ。」
「具体的な内容は?」
「はい、“成績保証制度”や“5教科セットコース”、その他“パズルや速読のコース”など、多彩な商品ラインアップが揃っています。」
「ほ、ほぉ~。じゃあ、料金体系は?」
「はい、料金的にはうちの塾とさほど変わりませんから、向こうに大きな優位性があるとは思いません。」
「なるほどね。ふむふむ。」
「ただ、一番やっかいなのが、“体験授業”ですかね?」
「ん?“体験授業”?」
「はい、“個勉塾”はいつも“最大一ヶ月(四回)無料体験”という打ち出し方をしているので、うちとはそれが大きな違いですかね。うちは“体験授業二回”で打ち出していますから。」
「まあ、それは大きな違いという程でもないだろう…。よっし、今回は、うちも“最大一ヶ月”でいこう。商品ラインアップも“個勉塾”のそれに合わせる!」
「でも、それでは関東圏のうちの教室との統一感がなくなりますが…。」
「いいんだ。過去、関東圏の塾が関東流のやり方を関西に持ち込むから、どこの塾も上手くいかなかった歴史がある。つまり、その地域に合わせた商品にしないと始まらないっていうことだな。」
「はい、分かりました。」
「それから、これはよく覚えておいて欲しい。その地域の一番塾に勝ちたいのなら、その塾がやっているレベルのことをそのままやるというのが成功方程式だ。同じレベルの品揃えなら、最終的にはブランド力とお金を持っている方が勝つんだ。」
「なるほど!腹にすとんと落ちます。」
「いいか、大手たるもの、目先の利益に拘ってはいけない。どーんと構えて、個人塾が取れない戦略で戦い続ける。そうすると、個人塾は資金面も人材面もストックがあまりないから、ジワジワ弱ってくる。そこを一気に叩くんだ!フフフフ…。」
「キーツネさんって、怖い人ですね。」
「シャラップ!私は人間ではない!神様だ!そこんところ、気を付けろ!」
「あっ、すみません。失礼しました。とにかく、お金で勝負ってことですね!」
■タヌーキと我利サイド。
「向こうがカネの力を使って攻めてくるんやったら、こっちはどうしたらええ?」
「う~ん…心でしょ!個人塾ならではの愛情たっぷりな戦略とでも言いますか…。」
「違うわい!!こっちもカネで対抗に決まってるやん!!」
「えっ?!お金ですか?」
「そうや。目には目を、カネにはカネをや。」
「アハハハ…。タヌーキさん、それは無理ですよ。しばらく会わないうちに、個別指導塾経営の感覚が麻痺してしまったんじゃないですか?」
「何やと?」
「すみません。別にタヌーキさんをバカにしているわけじゃないんですけどね、うちは、まだまだ個人塾に毛が生えた程度の小さな小さな会社ですよ。それに会社の規模の割に社員の人数を増やしていますから、今、最高にお金がない時ですしね。その辺の事情も考慮していただけますかね?」
「知らんわ。ワシの辞書の中には“考慮”なんて言葉はないで。考慮してほしいんやったら、社員みんなで野垂れ死にしたらええがな。アハハハ。」
「そんなこと言わないでくださいよ~。」
「ええか、よう考えてみ。塾ちゅう商売は、限られた地域の中で、他の塾と競争しているわけや。つまり、どこかの塾が生徒数を増やしたら、どこかの塾の生徒数が減っているわけや。それが現実やで。」
「確かにそうです…。」
「これは、戦争や。勝つか、負けるかの戦いや。だから、甘ったるいこと言ってんと、早よ軍資金持ってこいや。カネや、カネ、カネ持って来~い!!」
「でも、本当にあまりないんです…。」
「だったら、銀行ちゃんに借りたらええがな。」
「借金の話をそんな簡単に言わないでくださいよ。本当にもぉ~。」
「もぉ~と違うわ!ええか、大手が進出してきた時に一番考えなあかんことは、“出鼻をくじく”ことや。」
「出鼻をくじく?」
「そうや。つまり、塾の世界で“出鼻をくじく”と言ったら、どういう状態のことを指す?」
「う~ん…それは…生徒数が集まらないということ…ですよね?」
「そうや。最初に、生徒がガッと集まってしまったら、気分よくやっていけるけど、最初に全然集まらんかったら、どうなると思う?」
「そりゃあ、相当焦りますよね。」
「そう。向こうの教室責任者はサラリーマンや。生徒数目標もあるやろうから、全然届かへんかったら、上司からも怒られるやろうし、ボーナスも減らさせるかもしれんから、気持ち的にもどんどん悪循環に入っていくやろ。そうすると何をやっても上手くいかんようになる。それが個人塾が大手塾に対抗する最大の戦略や。」
「なるほど!」
「で、カネの話に戻るで。」
「はい。」
「今あるお金でやりくりするんは、もちろん大事なことやけどな、モノには勝負所ちゅうもんがあるんや。そういう時には、無理していかなあかん。」
「はい。」
「ええか。チラシの折込回数は昨年の二倍や。合計十二回や。これだけ打てば、恐らく大手の上をいく。絶対にケチったらあかんで。」
「でも、お金が…。」
「カネ、カネ、うるさいわい。」
「はい、すみません…。」
「あと、体験授業は、“最大二ヶ月”でいこう。」
「いやいや、それは…。」
「しゃーないやん。キーツネは絶対に今までの“個勉塾”に合わせてくるさかい、その倍にするんや。」
「そんなことしたら、売上が…。」
「あんな、ちゃんと計算してみいや。体験授業を四回増やしたとしても、たかが一万数千円の損失やろ?そんなん、入塾さえしてもろうたら、直ぐにもとが取れるやん。個人塾は目先の利益のことばっかり考えて、思い切ったことができひんから、大手に潰される運命を辿るんや。」
「なるほど…。」
「ずっとじゃなくていい。今回は“開校十二周年記念キャンペーンと銘打って、“最大二ヶ月無料体験”で勝負してみ。」
「えっ?十二周年キャンペーンですか?何か中途半端な感じがしますけど…。」
「別にええやん。十周年記念にしようが、十二周年記念にしようが、そんなんこっちの勝手やん。」
「確かにそうですけど…。」
「それから、向こうの広告宣伝はチラシしかない。もちろん、ポスティングや校門前でのビラまきや、WEB広告なんかもやってくるとは思うけど、まだ見ぬ顧客に対するものしかできひんわな。その点、ジブンところは既に生徒がいるわけで、“紹介施策”を駆使できるわけや。」
「はい。」
「だから、今回、“大紹介キャンペーン”を打つんや。いつもよりも大きな特典を用意してな。」
「でも、それじゃあ、またお金が…。」
「お金が何やねん。」
「いえ、何でもありません。それで入塾したら、十分もとが取れますもんね。」
「そう、分かってきたやん。」
「はい、タヌーキさんの弟子ですから。」
「わし、ジブンみたいなしょぼい弟子はいらんけど。」
「そんなこと言わないで、仲よくしましょうよ~。」
「まあ、ええけど、とにかくな、大手塾と勝負しようと思ったら、無傷ではすまん。お金という損害をくらっても、出鼻をくじく、これが鉄則や。よ~く、脳みそに刻んどき!」
「はい、分かりました!」
大手に勝つ戦略(その一)
広告宣伝にお金を使って“出鼻をくじくこと”
~大手塾VS個人塾~
果たして、第一ラウンドの勝負の行方はいかに!
※来週月曜日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。