個別指導の神様が降りてきた・リターンズ
~個別指導塾の勝てる戦略・大手塾VS個人塾~
皆様、我利勉という伝説の塾長を覚えているだろうか?
そう、今から十二年ほど前に、無名の個人塾を立ち上げ、開校1年間で生徒数を100名にした人物だ。
まあ、たかが生徒数100名で伝説というのはおこがましい話だか、ある意味、彼を伝説にしたのは、一人の「変な神様」との出会いがあったからだろう。
この物語は、その我利勉の十二年後のお話である。
※今回、塾名は「個勉塾」に変えてます(^。^)。
一.超大手塾が攻めてきた!
一月下旬のある日のこと。
「我利社長、大変です!」
「武太先生、だから、その“社長”っていう呼び方は止めてって言ってるじゃない。」
「でも、うちの塾も社員が増えてきて、それなりの会社になったんですから、社長と呼んだ方がいいと思うんですよ。」
「いやいや、そんな大した会社でもないんだから、そういう堅いのはやめようよ。」
「そうですか…。でも、そのかわり、もうちょっと社長らしく、威厳のあるオーラを放ってくださいね。」
「それは無理だって。生まれつきオーラがないんだから。」
「もぉ~、何でもかんでも“生まれつき”で済まさないでください!もっと、オーラを磨く努力をしてくださいってば!」
「はい、はい。で、何が大変なの?」
「あっ、そうでした、そうでした。あの塾がこの近くに開校するらしいですよ!」
「えっ?あの塾って?」
「関東圏で最も勢いがあると言われている超大手塾の“天下一個別”ですよ!」
「ひぇー!!!あ、あ、あの“天下一個別”が!!」
「そうです!」
「そっか…。」
「やっぱり、ヤバいですよね?」
「いや、大丈夫だと思うよ。」
「えっ?どうしてですか?」
「まあ、私も一応、大手塾出身だから分かるんだけど…、大手って、やっぱりその地域に合わせた戦略ってなかなか取れないんだよね。だから、どうしても、合わない部分が出てくるし、それに関東圏と関西圏は勝手が違うから、そう上手くいかないはずだよ。」
「そうですか。それならいいんですけど。」
「武太先生って柄にもなく、結構、心配性なんだね。アハハハ…。」
「もお~、茶化さないでください。私、別に心配性なんかじゃないんですけど、今回ばかりは何だか嫌な予感がするんですよね。」
「大丈夫、大丈夫。我々が創ったこの塾も、もう十二年が経過していて、しっかり地域に根付いているんだから、ちょっとやそっとじゃビクともしないから。」
「まあ、そうですよね…。」
私達の塾“個勉塾”は、現在、京都市の川科区を中心に5教室を展開していた。
社員は私を含めて十四名。それなりの所帯にはなっているのだが、当初、私がイメージした規模の教室数にはなっていなかった。
もちろん、言い訳をしようと思えばいくらでも言えるのだが、原因としては、とどのつまり、社長として私自身が未熟だったことに尽きるだろう。
さて、話を戻して…。
その日の夜、私は、いつものように“からくり屋珈琲店”に来ていた。
ここに来るようになって、かれこれ十二年になる。今ではこの場所がすっかり私のオフィスのようになっている。
「そう言えば、塾を創った当初は、ここでタヌーキさんにいろいろ教えてもらったよな~。」
私は昔のことを思い出していた。
そう、“タヌーキ”とは…自称・個別指導の神様で、私に大きな影響を与え、今の私があるのも、今の私達の塾“個勉塾”があるのも、この神様のおかげだった。
とにかく変な神様で、我がまま極まりなく、暴言のオンパレードで、ムカつくことの連続だったが、今思えば、愛情に溢れた最高の神様だった。
「タヌーキさん、今頃、どうしてるのかな~。」
私がそんなことを考えていた時、関東圏の知り合いの個人塾の先生から私の携帯電話に連絡が入った。
「もしもし、我利ですけど…。」
(我利先生!ご無沙汰してます!個別指導ブリッジの大森です。)
「ああ、大森先生、お久しぶりです!お元気ですか?」
(う~ん…元気かと言われれば、あまり元気はないですね…。)
「えっ?どうかされたんですか?」
(はい、実は…塾を廃業することになりまして…。)
「は、は、廃業?!」
(はい…。)
「何故なんですか?先生は、今まで堅実に一生懸命やって来られてたじゃないですか!」
(そうなんですけど…。一昨年から生徒数が減り始めて、もう塾を経営していけないところまで落ち込んじゃって…。)
「そんなバカな!先生の塾は、生徒数も100名を超えていて、地域からの信頼も厚い塾だったじゃないですか。」
(そうなんです。あの塾がやってくるまでは…)
「えっ?あの塾って?」
(はい。“天下一個別”という塾です。たぶん、今、最も勢いがあると言われている塾なんで、我利先生もご存知でしょ?)
「ええ、まあ…。」
(あの塾は、資金力もありますし、何よりも独自の教材や教室運営システムも開発しているので、本当に強いんです…。)
「でも、それで先生の塾が無くなるなんて…。」
(まあ、私が油断していたというか、ずっとこのまま地域に根差した塾でやれると思い込んでいたんですよね…。)
「う~ん…。」
(もう今となっては仕方がないことです。弱い塾が強い塾に潰される…これが現実なんですよね。)
「そうですか…。」
(それでね、我利先生、今日は私のそんな話がしたくてお電話したんじゃなくて、その“天下一個別”が先生のところの京都市川科区に出店する計画があるということを耳にしたんで、ご連絡したんですよ!)
「やっぱりですか!」
(あっ、ご存知でした?)
「はい、今日、うちの役員から聞いたばかりなんですけど…。」
(先生、本当に気を付けてくださいよ。)
「そうですね。でも、やっぱり関東圏のやり方と関西圏のやり方は違うと思いますし、個人塾というのは大手にはできないことも一杯できますから、大丈夫だとは踏んでいるんですけどね。」
(我利先生、私も最初はそう思っていました。大手塾なんて所詮サラリーマンの集まりで、人生を賭けてやっている私が負けるわけないって…。でも、現実としては、負けたんです!だから、絶対に舐めてかからない方がいいです。それに…。)
「それに、何ですか?」
(あの塾には凄い参謀がいるとか…。)
「参謀?」
(はい、参謀と言っていいのか分かりませんが、何やら神様がついているとか。)
「えっ?神様?」
(はい。個別指導の神様です。)
「こ、こ、個別指導の神様ですって!(まさか!!タヌーキがこの塾を手伝っているのか!!)」
(そうなんです。どうやら、その神様が考える戦略が凄いらしくて…。だから、私の塾だけじゃなく、“天下一個別”が出店してきた地域の個人塾はことごとく廃業に追い込まれているみたいなんです。だから、我利先生だけは絶対にそうならないように頑張ってほしいんです。)
「大森先生…。いろいろ教えていただきまして、有り難うございました。とにかく、私も油断せずに、対抗策を考えます!」
(はい、是非、頑張ってください!では、長々とすみませんでした。お元気で!)
私は大森先生との電話を切った後、一瞬身震いがした。
「タヌーキが向こうについているなんて…。これは、負けるかもしれない…。」
不安に駆られた私は、いても立ってもいられず、急ぎ足で教室に向かっていた。
「どうしよう?どうしよう?“天下一個別”に潰される…。」
その時、私は誰かとぶつかった…。ドーン!!!
「あイタイタタ…。キミ、いったいどこ見て歩いているんだ!!痛かったじゃないか!!」
「あっ、すみません…。えっ?キツネ?!」
目の前には、おじさんのようなキツネ、いや、キツネに似たおじさんがいた。年齢は私よりも少し上くらいだろうか。
「はあ~?今、ミーのことを見て、“キツネ”って言ったよね?」
「いえ、すみません。言ってません…。」
「いやいや、今、確かに“キツネ”って言ったでしょ!」
「いえ…。」
「言ったでしょって!!」
「あっ、はい、すみません。」
「やっぱりね~。キミ、名誉棄損で訴えますよ!」
「本当にすみません。許してください。」
「どうしようかな~。」
「本当に本当に申し訳ございません!」
私は地面に頭が付きそうなくらい深々と頭を下げて謝った。
「まあ、仕方がないな~。今日のところは許してやるか。」
「はい、有り難うございます!」
「ところで、キミは何でそんなに急いでいたんだ?」
「はい。ちょっと厄介なことになりそうでして…。」
「厄介なこと?話を聞かせてくれたまえ。」
「でも…。」
「いいから、話してみなさいって。」
「はい…。実は…。」
私は、自分が学習塾の経営者であること。そして、巨大戦力を持つ大手学習塾“天下一個別”がこの地域に進出してくること。それに対して、不安を感じていること。…などなど。
気が付けば、私はこの初めて会ったキツネに全てを話してしまっていた。
「ハハハ…。それでビビッて、チビッて、ミーにぶつかったわけだ…アハハハ…。」
「別にチビッてはいませんけど…。」
「いやいや、冗談に決まってるだろ。キミって、そういう細かいことをいちいち気にするタイプなんだ。器が小っちゃいね~。アハハハ…。そんなんじゃあ、キミ、大成しないよ!」
「うっ…。」
何だ、このキツネは!言葉のしゃべり方は違うが、この癇に障る言い方はタヌーキそっくりだ。
「まあでもさ、キミ、やめたら?」
「えっ?何をですか?」
「何をって、塾に決まってるだろ!」
「そんなバカな。社員もいるし、そんな簡単にやめられるわけないでしょ。それに負けると決まったわけでもないですし。」
「いやいや、決まってるよ。キミの負けは間違いない!」
「すみません。あなた、いったい何を根拠にそんなことを言ってるんですか!」
「私には分かるんだよな~。ん?何故かって?…それは、私が個別指導の神様だからだ!」
「ひぇー!!!!!こ、べ、つ、し、ど、う、の、か、み、さ、ま!!!!!!」
「そう、私は、個別指導の神様“キーツネ”って言うんだよ。まあ、よろしくたのむよ!」
何だ、何だ。キーツネだって?!…こいつも個別指導の神様だというのか。でも、確かにタヌーキよりも随分と頭が切れそうだ。おまけに、こっちの方が神様らしい顔つきと風格がある。
「キーツネさん、いや、キーツネ様、だったら、私に力を貸してください。“天下一個別”を撃退する知恵をさずけてください。」
「う~ん…ムリ!」
「えっ?」
「それは無理だって。ミーはさあ、貧乏な奴、嫌いだから。」
「そんな~。私、決してお金持ちではないんですけど、そこまで貧乏ではないと思うんですけど…。」
「でも、顔が貧乏くさいからな~。」
「えっ?!」
「と言うのは冗談で、ミーは、その“天下一個別”の戦略参謀だから無理なんだよね~。アハハハ。」
「ひゃー!!!あ、な、た、が、さ、ん、ぼ、う?!」
「そうなんだ。だから、悪いけど、キミの塾、潰しちゃうから。二月に新規校を開校するから、もう少し待っててね~。アハハハ。」
「ちょっと待ってください。私には十三名の社員がいるんです。うちの塾が無くなったら、彼らの働き場所だって無くなるわけで、それでは彼らの生活が…。」
「ノープロブレム!大丈夫、大丈夫。働き場所なんて、どこでもあるから、心配しなくてよろしい。それに、うちの“天下一個別”で雇ってやってもいいしね。なんなら、キミも雇ってやろうか?アハハハ…。」
「そんな…。」
「まあ、せいぜい頑張ってくれたまえ。バイなら!」
何なんだ。去り際までタヌーキに似ている。個別指導の神様って、どいつもこいつも性格の悪い奴ばっかりなのか。
「私はいったいどうすればいいんだ…。とほほ…。」
※明日に続く
オーラのないマッチメーカーこと、株式会社WiShipの岡田がお送りしました。